第9話 黒子イワナ

また1匹、個性的なイワナとの出会いです。

全身黒ずくめのイワナが釣れました。まるで黒子のようです。

目は真っ黒に見えますが、ちゃんと白目はありました。

こんなイワナを釣ったのも初めてです。

サイズは22~23cmいったところですが、体のわりに鰭が異様に発達しています。

顔つきも、魚というより爬虫類といった感じで野性味を感じます。

間違いなくこの川で生まれ育った野生のイワナでしょう。

実はこのイワナに出会うまで、それは長い長い道のりでした。

今でも忘れられません。

今回はこのイワナを釣るまでの悪戦苦闘の話です。

この日は朝から雨模様で、激しく降ったり小雨になったりと、釣り人泣かせの天候でした。

魚の反応もあまり良くなく、何の釣果もないままただ時間だけがむなしく過ぎて行き、そろそろ昼近くになろうとしていました。

こんな日は段々と惰性で何となくキャストを繰り返すという泥沼にはまっていき、釣れる気が全くしなくなってくるものです。

そうこうしているうちに、良型が狙えそうなポイントに到着。

一息入れて、ここは腰を落ち着けてじっくり攻めようと気持ちを切り替えて、1投目をキャスト。

ところがです、頭上に木が覆いかぶさっていることに気付かず、フライは思い切り枝に引っ掛かってしまいました。

最悪です。

体が雨に打たれ続け、冷え切っていることもあり、相当ストレスがたまっていたと思います。

イライラが募り、引っ掛かったフライを回収するため、ロッドを少し強めに変な方向へ引っぱってしまい、ティップの先を折ってしまいました。

いつもなら絶対にやらないことですが、この時は相当動揺していたと思います。

こういう場合、普通なら竿を畳んでとっとと帰るのですが、この時は違いました。

自己嫌悪に陥りながらも、このままでは帰れない、目の前のポイントで何とか釣ってやる、いや釣れるという予感というか、何故か自信のようなものを感じました。

いわゆる、まったく根拠のない自信というやつです。

不思議ですが、この時は普段の自分とは違う、強気な別人格が乗り移ったような感じがしました。

とは言え、ポイントは二つの石に囲まれた狭いポイントです。

この状況で、フライを狙ったところに落とすのはなかなかの難題です。

気を取り直してキャストしましたが、ティップの先がない上に、折れたティップの先端部分がラインに通ったまま宙ぶらりんの状態です。

ラインがうまく伸びていくわけもなく、狙ったところになかなかフライが入りません。

それでも何回目かのキャストで何とか狙ったところに着水、よし入ったと思ったその直後、パシャっという飛沫が上がり、合わせると確かな手応えが、やっぱりいた、予感的中に大興奮、ただティップの先がない分いつものように竿が撓ってくれない感覚を感じバレることを心配しましたが、何とかランディングに成功、ネットに納まったイワナを見てまた大興奮が止まりません。

根拠のない自信が結果に結びついた瞬間でした。

今までに味わったことのない達成感に体が震えました。

(雨に打たれ続け、ただ寒かっただけかもしれませんが・・・)

釣りをしていると、天候に悩まされたり、まったく魚が反応してくれなかったり、心が折れそうになったりもしますが、最後にたった1匹の魚が釣れただけで、それまでのことがすべて帳消しになりますよね。

そんな経験ありませんか?

                     2015年6月 岐阜県郡上市の渓流にて

 

悪戦苦闘の末に出会った黒子イワナ

ロッドを折りながらよくこの狭いポイントにフライが入ったものです。