自然の渓流で釣りをする上で、一番大切なことは何か?
ある人は、沢山の魚を釣ること、またある人は、尺を超える大物を釣ることと答えるかもしれません。
私にとって一番大切なことは、何をおいても釣りに行った先から、無事に帰ってくるということです。
自然の中で、思い思いに好きなことをして過ごすのは、この上なく楽しくもあり、癒されるものですが、その反面、思わぬ危険も潜んでおり、大変な災難に見舞われることもあります。
毎年のように、夏になると水の事故で命を落とされたり、冬の寒い時期には雪山で遭難したり、滑落して命を落とされたりといったニュースが後を絶ちません。
楽しいはずの思い出が、一転して取り返しのつかない、悲しい思い出に変わってしまう。
本当に痛ましいことです。
私にも過去に苦い経験があります。
あれはある年の禁漁を間近に控えた日に、釣りに行った時のことです。
入渓して30分ほど経った時、思わぬ事態が起きました。
今ではどんな状況だったのか詳しいことは覚えていませんが、石につまずいて、左足があらぬ角度になったまま派手に尻餅をついてしまいました。
その瞬間、バキッと嫌な音がして、左足首の外側あたりに痛みが走りました。
話には聞いていましたが、これが骨折した時の音か、まさか自分がこの耳で聞くことになるとは思いもしませんでした。
一瞬放心状態になりましたが、あれこれ思案した末、ここは一刻も早く川から上がり、自宅近くの病院へ向かうことが最善と決断しました。
入渓してすぐだったこと、まだ、かかかとをついて歩けたこと、当日が平日で病院の受診が可能だったこと、何より折れたのが左足だったことが幸いして、何とか自力で車まで戻り、病院へ向かうことができました。
病院についた時には左足首は腫れ上がり、あまりの痛さに足をつくことすらできませんでした。
下った診断は、骨折で全治2ヶ月。
「なんてこった」
予想していたことですが、これから先の2ヶ月間のことを思い、目の前が真っ暗になりました。
家族には心配をかけ、職場の同僚には多大な迷惑をかけ、1ケ月後に友人の結婚式に出席する予定でしたが、水を差すような結果になってしまいました。
自己嫌悪に陥り、反省の日々を送りながら治療に通った日々を思い返すと、今でも穴があったら入りたい思いです。
この事件が起きたのは、10年ぶりに釣りを再開して間もなくのことでした。
10年も休んでいた釣り人を、簡単に受け入れてくれるほど、川は甘くありませんでした。
むかし見た、竹野内豊さんと反町隆史さんがダブル主演したビーチボーイズというドラマの中で、マイク真木さん演じるダイアモンドヘッドという民宿のオーナーが、何年振りかでサーフィンを再開して、波に飲み込まれて溺れそうになってしまうシーンがよみがえってきました。
その時「ずっと休んでたやつが、いきなり入って波に乗れるほど、海は甘くねえよな」と言ったセリフを思い出し、胸に突き刺さりました。
本当にその通り、決して自然をなめてはいけません。
ケガが完治した後は、もう一度足腰を鍛えなおし、川へ行くようになりました。
今でも釣りに行くたびに、ハッとする出来事に遭遇することは、毎回のようにあります。
自然のフィールドへ出かけるときは、自分のことはもちろんのこと、大切な人たちのことを思い、どうかくれぐれもご安全に。