第22話 イワナが歩く

イワナが歩く?

「そんな馬鹿な。」

「だってイワナって魚でしょ?」

イワナのことを深く知るまでは、そう思っていました。

でも、イワナって本当に歩くんですよね。

正確にいうと、歩くというよりは、蛇のように体をくねらせて這っていくといった方がいいかもしれませんが・・・

源流域に棲むイワナは、渇水になるとより水量の多い場所を求めて移動するという話をテレビで見たとき、イワナがその通り浅いところから一旦石の上に這い上がり、さらに水量の多いプールのような場所まで這っていき飛び込んでいきました。

魚なのに石の上に体を起こして移動する、驚きの行動でした。

イワナは流れの緩い石周りや沈み石の下、淵の水深の深いところにじっとしているため、丸身をおびた体つきをしているからこそ備わった能力なのでしょう。

速い流れの中で泳ぎながら磨かれ、流線型をしたアマゴには到底できない芸当です。

源流という過酷な環境の中で生き延びるすべを身に着けたイワナは、他の渓流魚とは全く違った生き物に思えます。

分類上はサケ目サケ科イワナ属なので魚に違いありませんが・・・。

イワナの顔を何度か正面から見たことがありますが、やはり魚というよりは爬虫類に見えてしまいます。

私が釣ったイワナの中にも、歩く能力の片鱗をうかがわせた個体がいました。

写真の二匹のイワナです。

釣り上げてネットの中に収め、岸寄りの水辺に置いておいたところ、ネットから逃げ出し、石の上にムクッと体を起こしました。

写真を撮ってすぐリリースしましたが、あのまま放置していたら自分で石の上を這って川へ戻っていったかもしれません。

イワナには他にもカエルを食べるとか、蛇を食べるといった逸話があります。

矢口高雄さんの漫画で、イワナの恩返しという作品がありますが、物語のラストで数匹のイワナが大きな蛇を襲い、骨だけにしてしまうという衝撃のシーンが描かれています。

これはさすがに実話に基づいた話ではないと思いますが・・・。

カエルについては、確か以前に沢田賢一郎さんが書かれた渓流のドライフライテクニックという本の中で、割いたイワナのお腹からカエルが出てきた時の写真が掲載されていたのを見た記憶があって、本当の話なのは確認していますが、蛇となるといまだに信じがたい思いです。

願わくばイワナがカエルや蛇を食べる現場を見てみたいものですが、多分、それはなかなか叶わないでしょう。

そんな光景見たことありますか?

イワナという魚は、やっぱりほかの魚とは一線を画す、特別な存在に思えてなりません。

 

体をムクッと起こしたイワナ、今にも歩き出しそう。

このイワナは体を起こした後、口を大きく開き威嚇しているようでした。