前回の野生アマゴが釣れた川と同じ川で、別の日に起こった出来事です。
この日は入渓から間もなくアタリがあり、早々と一匹目が釣れました。
どこからどう見ても成魚放流のアマゴです。
鱗もムラがあり、朱点もぼやけた感じで、鰭も未発達です。
その上、何とも痛々しいのは、背骨の下のアタリから尾にかけて、体がくの字に曲がってしまっています。
放流後に体が曲がってしまったとは考えづらいので、養殖の生け簀で多数の魚の中で泳いでいるうちに他の魚とぶつかったのか、あるいは奇形なのか。
野生のアマゴを狙って放流の無いかなり上流まで来ていたはずでしたが、この魚は放流場所からここまで上がってきたようです。
成魚放流のアマゴは流れのない水槽の中で育ったため、自然の渓流の速い流れにはなかなか馴染めず、放流場所にとどまると言われています。
このアマゴはこんな体で放流場所からさらに上流を目指して泳いできて、白泡がたっている早い流れの筋に身を隠して泳ぎながら、流れてくるフライをしっかりと咥えています。
野生のアマゴと変わらない知恵と体力を身に付けていました。
自然の渓流の中で釣った、初めての成魚放流のアマゴです。
成魚放流のアマゴは、ある意味釣り人に釣られるために人工的に育てられた魚ですが、それにも関わらず何とかこの川で生き延びようとするこの魚の生命力を感じました。
今まで人間に餌を与えられ育った魚が、自然の渓流に放たれたことで、本来の野生の本能が目覚めたのかもしれません。
リリースするときには、何とかこの魚がこの川で余生を全うできるように祈らずにはいられませんでした。
自然の渓流で釣りを始めてから成魚放流の魚には全く興味がなく、ただひたすら野生の魚を追い求めてきましたが、この魚に出会って野生魚でも放流魚でも、魚の命の重さに変わりはないと、ふとそんなことを感じました。
この魚も今まで出会った魚とは別の意味で忘れられない1匹です。
成魚放流の魚でもやっぱりアマゴはアマゴということでしょうか?